評価書は何を確認するのか──事業計画書を「続く会社の設計図」に変える実務チェック(外国人経営者×経営OS・3日目/実務編)

0. はじめに: 評価書は「通すための添付書類」ではなく事業の評価
本記事は、日本で法人(株式会社等)を設立・運営している、外国人経営者を対象としています。個人事業での在留資格活用は扱いません。特に、既に日本法人を運営している外国人経営者とその支援に関わられている、行政書士・弁護士等を主な読者として想定しています。

在留資格の判断、申請手続き、条文の解釈は、これらは行政書士・弁護士の領域です。本記事では、事業計画の中身、数値計画の整合、事業の評価、許可後の経営管理に絞ります。制度上の審査は個別事情を踏まえた総合判断とされており、以下は、事業計画と経営実態の説明を整えるための実務上の点検項目です。

1. 結論: 評価書は「通すための添付書類」ではなく事業の評価
2025年10月16日施行の改正では、在留資格決定時に提出する事業計画書については、具体性と合理性があり実現可能な計画かを、経営に関する専門的知識を有する者が確認することになったとされています。

評価書は、単に計算が合っていることだけを証明する文書ではありません。事業計画書に書かれた事業を外から見て、顧客が存在するか、商品やサービスが選ばれるか、必要な経営資源へアクセスできるか、収支と資金繰りが続くかを確認するものです。

入管だけが、この問いを投げかけるわけではありません。銀行は融資や口座取引を続けられる会社かを見ます。取引先は契約を守り、継続供給できる会社かを見ます。社員は給与が支払われ、自分の仕事が続く会社かを見ます。

事業計画書を一度きちんと作れば、相手が変わる度に会社の説明を一から作り直す必要が減ります。評価書の本質は、入管・銀行・取引先・社内という4つの層に通じる設計図になっているかを第三者が確認することです。

市場、商品、組織、資金、実行体制をつなぎ、一つの事業として、筋が通っているかを見るには、経営全体を俯瞰する視点が必要です。これが中小企業診断士の領域です。

2. 評価書の前に、事業そのものを評価する
数値計画は重要です。しかし、売上計算が正しいことと事業が成り立つことは別です。

例えば「2年後に売上を2倍にする」という計画で、客数と単価の掛け算が合っていても、それだけでは評価できません。その顧客に接触できる販路があるのか、競合よりも選ばれる理由があるか、増加する業務を処理する人員がいるか、先行費用を支える資金があるかまで見なければなりません。

中小企業診断士が確認するのは、この事業の見立てについてです。業界や市場の局面、資金・人材・販路へのアクセス、商品性、経営の技術、実行体制等を見た上で、成長、守り固め、転換、承継、計画的縮小のどの進路を取るかを判断します。

数字は、この判断の結果として作ります。先に希望する売上と利益を置き、後から事業の説明を合わせると、売上の根拠、人員計画、資金使途の間に無理が出ます。評価書を作る前に必要なのは、計画を良く見せることではなく、現在の事業を評価して現実的な進路を決めることです。

3. 設計図を3つの軸で点検する
評価書の中心となるのが、具体性・合理性・実現可能性です。次の項目は計画の完成を判定する採点表ではなく、追加の検討と専門判断が必要な場所を見つける入口です。

3-1. 具体性: 誰に何をどう売るか
【チェック項目】
□ 顧客を日本企業、一般消費者ではなく、地域・業種・規模・属性まで特定している

□ 商品・サービスの内容、価格、契約単位、提供方法が数字で示されている

□ 見込み顧客へ接触する営業方法と販売チャネルが決まっている

□ 仕入先、業務委託先、連携先について候補または交渉状況を示せる

□ 売上を客数×単価×購入頻度等に分解し、根拠を説明できる

具体性で詰まりやすいのは、母国での実績を日本市場へそのまま置き換える場面です。日本の顧客が、同じ理由で購入するとは限りません。価格、商流、決裁者、納期、契約慣行を日本側で改めて確かめる必要があります。

3-2. 合理性: 各要素が一本につながっているか
【チェック項目】
□ 売上の増加に対応する採用、外注、設備、運転資金が計画に入っている

□ 価格と提供価値が対応し、競合との差が説明できる

□ 資本金の使途と損益計画、資金繰りの数字が一致している

□ 経営者の経験と日本で行う事業の内容が結び付いている

□ 許認可、事業所、人員、販売開始時期の順序に無理がない

合理性は、要素同士のつながりで確認します。売上だけが増え、人件費も外注費も動かない計画は不自然です。一つの前提を変えた時に関係する数字と行動も変わるかを追うと、切れている箇所が見えます。

3-3. 実現可能性: 根拠と実行手段があるか
【チェック項目】
□ 過去実績、市場資料、見積書、契約見込み等の裏付けがある

□ 初期赤字や入金の遅れを含めた月次資金繰りを確認している

□ 社長以外の担当者と外部専門家の役割が決まっている

□ 売上未達、原価上昇、採用遅延等が起きた場合の代替策がある

□ 社長自身が計画の前提と数字を自分の言葉で説明できる

実現可能性は、楽観的な数字を低くすれば高まる、というものではありません。必要な資源に手が届くか、行動を実行できるか、前提が崩れた時に修正できるか、まで含めて判断します。

4. よくある4つの詰まり方と、その後に起きること
一つ目は、通すことだけを目的にする計画です。現場で使えなければ更新、融資、採用のたびに別の説明が必要になります。

二つ目は、数字を先に作る計画です。希望する利益から売上を逆算し、客数や営業体制を後付けすると、事業と数値の因果関係が切れます。

三つ目は、専門家へ丸投げする計画です。日本語として整っていても、社長が説明できなければ質問が深くなった時に回答が止まります。支援の役割は社長に代わって物語を作ることではなく、社長の考えを検証して説明可能な形にすることです。

四つ目は、一度作って放置することです。売上構成、人員、価格、原価、取引先は変わります。計画と実績の差を見なければ、設計図は現実から離れます。

その結果更新時に当初計画と実績の差を説明できない、必要利益を確保できない、増資に回す現金が残らないといった問題につながります。計画書の薄さは、後になって更新対応と資金繰りの両方に表れます。

5. 評価書を毎期使い続ける
既に「経営・管理」で在留中の方については、2028年10月16日までの更新では、経営状況や新基準へ適合する見込み等を踏まえて判断するとされています。経過措置は計画を先送りする期間ではなく、事業と資本を整えるために使う期間です。

既存法人では、提出時点の計画より、その後の運用が重要です。月次では売上、粗利、固定費、現金残を確認します。四半期ではKPIと人員体制を見直します。決算時には、翌期の収支計画と資本政策を更新します。

資本金を利益から積み上げる場合は、2期を基準に必要利益を逆算します。例えば現在の資本金が500万円であれば、必要額との間には2,500万円の差があります。税引前利益がそのまま資本金になるわけではなく、納税、借入返済、運転資金、設備投資も必要です。会社毎のスタートラインに応じて、価格、原価、役員報酬、投資時期まで見直す場合があります。

【チェック項目】
□ 計画と実績の差を毎月確認する

□ 差が出た理由を数量・単価・原価・固定費に分ける

□ 次の3か月の行動と資金繰りを修正する

□ 決算後に翌期計画と資本の積み上げ方を更新する

評価書は、提出時点の計画を一度確認して終わるものではありません。計画と実績の差を検証し、修正を重ねる基準として使うことで、初めて経営のツールになります。

6. 誰に何を頼むか
在留資格の判断、申請書類、入管との手続きは、行政書士・弁護士へ相談します。事業計画の中身、数値計画の整合、事業の評価、許可後の予実管理と収支改善は、上記より主に中小企業診断士が担う領域です。税務上の処理や申告は税理士、労務の関係は社会保険労務士に相談するとよいでしょう。

重要なのは専門家を個別に置くだけでなく、同じ事実と数字を共有することです。申請上の説明、事業計画、決算、社内の実行計画が別々になればどこかで矛盾が生じます。中小企業診断士が経営側のハブとなり、共通の設計図を使うことで、申請前の計画と、許可後の運用をつなげられます。

7. 今からの一歩
【行動項目】
□ 自社の事業を「誰に・何を・いくらで・どう届けるか」の1文にする

□ 直近12か月の月次損益と現金残を並べ、計画との差を確認する

□ 事業計画、申請、税務、労務を担当する専門家の役割を一枚に整理する

この3つだけでも、自社で決められる部分と専門判断が必要な部分が分かれます。
ただし、その先では顧客、価格、原価、人員、資金を一つの計画として整合させ、実績に応じて更新する作業が必要です。

8. ご相談について──評価書作成だけで終わらない伴走型支援
中小企業診断士として私が担うのは、事業計画の中身、数値計画の整合、評価書の中心となる事業の評価、許可後の運用、そして毎期の収支改善に並走することです。

計画を良く見せるための支援ではありません。社長が自社の事業と数字を自分の言葉で説明できる状態を作り、その状態を毎期保ち続けるための伴走です。

評価書を一度作っても、市場、価格、顧客、人員、資金繰りは変わります。売上が計画を下回れば、営業方法や商品構成を修正します。原価が上がれば、価格や仕入条件を見直します。採用が遅れれば、外注や業務手順を組み替えます。

この修正を決算後や更新前にまとめて行っても、打てる手は限られます。実行段階で数値と行動を確認し、早い段階で修正することに伴走型支援の意味があります。

支援は、次の3段階を一続きで行います。

□ 現状診断: 事業、決算、資本、人員、取引、許認可、専門家体制を棚卸しする

□ 設計: 具体性・合理性・実現可能性を備えた事業計画と数値計画へ落とし込む

□ 運用: 月次の予実管理、資金繰り、KPI、収支改善、翌期計画の更新を続ける

完成した計画書がなくても、相談は可能です。まずは現在の設計図が具体性・合理性・実現可能性のどこで止まっているか、を確認します。課題が事業、数字、体制、説明のどこにあるかを切り分ければ、必要な対応と専門家の役割が見えます。

外国人経営者ご本人からのご相談に加え、事業計画や評価書の経営面を分担したい行政書士・弁護士等からのご相談にも対応します。

在留資格や申請手続きは行政書士・弁護士と連携して、私は事業の評価、計画の中身、数値の整合、許可後の経営改善を担当します。

これだけの要素を整合させ、事業の変化に合わせて毎期点検し続けるには一定の負荷がかかります。だからこそ一度の書類作成で終わらせず、設計・実行・検証・修正をつなぐ伴走型支援が適しています。

また、私は多数外国人経営者の方の支援経験がありますので、今後日本での事業継続に当たっても、経営面からのサポートや、日本人従業員とのコミュニケーション、日本の商慣習の理解やギャップを埋める対話や理解の促進のサポートも含め、伴走型できめ細やかなサポートが可能です。

ご相談を希望される場合には、ぜひお問合せフォームよりご相談ください。

免責】
在留資格「経営・管理」の審査は、法令や告示に基づく要件に加え、個別の事業内容や実態を踏まえた総合判断によります。本記事は出入国在留管理庁の公開情報と実務動向をもとに執筆時点で整理したものであり、特定の許可を保証するものではありません。最新情報は出入国在留管理庁の公表内容をご確認ください。在留資格の判断や申請実務は行政書士・弁護士等へご相談ください。