【実務編】小規模事業者が1億円を目指す道筋──社長個人の事業から、組織で稼ぐ会社へ

0.この記事の使い方とnote案内
本日のnoteでは、小規模事業者が1億円を目指す意味を、構造と経営OSの観点から整理しました。本ブログでは、今の規模から1億円へ向かうために、何から手を付け、どの順番で会社を整えるかを実務の流れとして示します。

1.まず、自社の現在地を知る
1億円を目指す時、最初に行うべきことは売上目標の設定ではありません。まず、自社が今どの位置にいるかを確認します。

本シリーズでいう1億円は、政策上明確に線引きされた基準ではありません。現場実務上小規模事業者が社長個人中心の経営から、組織として稼ぐ経営へ移る段階の、一つの目安です。

実際に多いのは、売上は伸びているのに、社長の仕事だけが増え続け、「忙しくなっただけで会社が強くなっている実感がない」という状態です。これは、売上規模と経営の器が一致していないために起こります。

現在地は、売上高だけでは判断できません。次の三つを確認してください。

・現在の売上規模
・事業が社長個人にどの程度依存しているか
・原価OSと現金OSが動いているか

売上規模では、直近3期の売上高と売上総利益を並べます。単年度の数字だけでなく、増減の傾向も見ます。売上が増えていても粗利が減っている場合は、規模拡大によって経営が強くなっているとは言えません。

次に、社長への依存度を点検します。社長が営業しなければ受注が止まる。社長が現場にいなければ、品質が下がる。社長しか見積りを作れない。社長しか取引先と価格交渉できない。社長しか資金繰りを把握していない。このような項目が多いほど、会社ではなく社長個人が事業を動かしています。

最後に、原価OSと現金OSを確認します。

原価OSとは、価格と粗利を管理する仕組みです。商品別、顧客別、案件別にどこで利益が出ているかを説明できる状態を指します。

現金OSとは、返済と資金繰りを管理する仕組みです。すなわち今後の入金、支払、借入返済、投資予定を見通せる状態を指します。

今、この基準を全て満たしていなくても、問題ありません。重要なのは、自社の現状と目安との差を知ることです。現在地の確認は、評価のためではなく、次に整える順序を決めるために行います。

2.1億円を目指すと、自覚的に決める
現在地を確認した後は、1億円を目指すと自覚的に決めます。

目標を置かなければ、日々の受注対応が経営の中心になります。設備投資、人材育成、価格改定、資金調達、業務の標準化は目の前の仕事より後回しになりやすいためです。

目指さない選択を無自覚に続けることは、現状維持ではありません。環境変化への対応を先送りすることです。

小規模のまま経営を続ける状態は、荒波に小さな漁船で立ち向かうことに似ています。小回りは利きます。しかし、原材料費の高騰、大口取引先の喪失、従業員の退職、設備故障、災害、金利上昇などが重なると、受け止める余力がありません。

小規模事業者に不足しやすいのは、能力ではなく耐性です。手元資金が少ない。人員に余裕がない。管理を任せられる人がいない。設備更新の資金が乏しい。新しい販路へと投資する時間も資金もない。この状態では、環境変化への対応だけで限られた経営資源を使い切り、将来への再投資まで回りません。

1億円を目指す意味は、単に売上を増やすことではありません。環境変化に耐える資金力と、次の投資を行う余力を作ることです。

目標を置けば、判断基準が変わります。今の仕事を、全て社長が抱え続けてよいのか。現在の価格で人材投資ができるのか。利益の薄い仕事を続けるべきか。どの強みに経営資源を集中するのか。誰に何を任せるのか。

1億円という目印を置くことで、これらの問いに期限と順序が生まれます。

3.社長個人への依存から抜け出す道筋
1億円への最大の壁は、市場の大きさだけではありません。社長個人の処理能力です。

ここで多くの社長が行き詰まります。仕事を任せる必要は理解していても、任せられる人がいない、教える時間がない、品質が落ちるのが不安というような理由で結局は自分で抱え続けるためです。

しかし、社長が営業、現場管理、見積り、請求、採用、資金繰りを全て担う状態では、社長の時間が売上の上限になります。社長の労働時間を増やすだけでは、持続的な成長にはつながりません。

抜け出す方法は二つです。

一つは、仕事を人に分けることです。
もう一つは、会社の強みを一点に集中することです。

最初に、社長が現在行っている仕事を書き出します。

・売上を直接作る仕事
・品質や顧客満足を守る仕事
・資金や人員を配分する仕事
・社内で代替可能な作業
・外部へ任せられる作業

この分類を行うと、「社長でなくても回る仕事」が必ず見えてきます。

最初に任せるべきなのは、定型化しやすい仕事です。請求書の発行、入金の確認、見積資料の準備、顧客情報の入力、在庫確認、業者との日程調整などが該当します。

次に、判断基準を言語化できるような仕事を任せます。見積り、発注、品質確認、顧客対応などです。いきなり全てを渡すのではなく、金額や案件の範囲を決めて権限を移していきます。

その上で、社長は次の仕事へ集中します。

・売る仕組みを作る
・会社の強みを磨く
・価格と粗利を決める
・資金を配分する
・人を採り育てる
・金融機関や主要取引先へ説明する

同時に、会社の強みを一点に集中します。小規模事業者は、人材も資金も資源が限られています。複数の市場、複数の商品、複数の顧客層を同時に追うと、営業も投資も分散します。

そこで、最も粗利が高い商品は何か、継続受注につながる顧客は誰か、自社が選ばれている理由は何か、競合より高い価格でも売れる要素は何か、今後3年間で伸ばせる市場はどこかを確認します。

人に分けることと、強みを絞ることは一体です。事業が複雑なままでは、仕事を渡せません。商品、顧客、手順を絞ることで、業務を標準化しやすくなります。

1億円への道筋は、社長が今以上に走ることではありません。社長しかできない仕事を減らし、組織で売る仕組みを作ることです。

4.現金OSを、具体的な数字で整える
人へ仕事を分けても、現金が不足すれば成長は止まります。そのため、原価OSと並んで早期に整えるべきなのが現金OSです。

まず、手元資金を確認します。

一つの目安は、月商3か月分以上です。理想を言えば6か月分ですが、最初は3か月分を目指します。月商1,000万円であれば3,000万円です。
※なお、これも運転資金や様々な計算の仕方や考え方がありますので、すでに使用している基準がある場合は、その基準を用いても大丈夫です。

ただし、これは絶対的なルールではありません。業種、回収期間、在庫、借入返済額、固定費によって、必要額は変わります。今の時点では、3か月分を満たしていなくても問題ありません。現在の手元資金が、月商の何か月分に相当するかを把握することが、出発点です。

次に、投資余力を確認します。

設備、人材、広告、システム、新商品開発などへの投資は、年商の10%以内に収めるのが一つの目安です。重要なのは、投資した後も月商3か月分程度の手元資金を残せるかどうかです。

年商5,000万円の会社が500万円を投資できるかどうかは、口座残高だけでは判断できません。入金予定、支払予定、借入返済、税金、賞与、設備更新までも含めて確認することが重要です。

最低限今後12か月の売上入金予定、仕入・外注・人件費・固定費の支払予定、借入返済額、税金と社会保険料、投資予定額、月末の現金残高を一覧にします。

難しい資料を作る必要はありません。毎月の現金残高が見える表を、一つ作ることが先になります。さらに、1億円クラスを目指す会社では金融機関との日頃の対話が欠かせません。資金が必要になってから初めて相談するのでは、遅い場合があります。

金融機関には現在の売上と粗利、主要顧客と主要商品、今後の売上目標、必要な投資、投資後の回収見込み、借入の返済方法、現在の経営課題を自分の言葉で説明できるようにします。

金融機関との対話は、借入を申し込むためだけのものではありません。
自社の数字を外部へ説明する訓練でもあります。

税理士や専門家に、資料作成を依頼することは有効です。しかし、最終的に経営を説明するのは社長です。原価OSで利益を作り、現金OSで残し、再投資へ回す。この循環が、1億円への財務基盤になります。

5.小規模事業者持続化補助金の様式2で、計画づくりに着手する
1億円への計画を作る時、最初から分厚い中期経営計画書を作る必要はありません。
最初のツールとして使えるのが、小規模事業者持続化補助金(以下、持続化補助金)の、様式2です。

様式2では、企業概要、顧客ニーズ、市場動向、自社の強み、経営方針、今後の計画、補助事業の内容と効果を整理します。

これは、補助金申請のためだけの文章ではありません。
自社が誰に何を売り、なぜ選ばれ、今後どこへ進むのかを、一枚の計画として整理する機会です。

補助金の採択だけを目的にすると、対象経費の説明が中心になります。しかし、1億円を目指すなら順序を逆にします。

まず、自社の経営課題を整理します。次に、1億円へ向かう上で必要な取組を決めます。その後で、持続化補助金を使える部分があるかを確認します。

様式2を作る時は現在の顧客は誰か、今後増やしたい顧客は誰か、自社の強みは何か、どの商品で売上と粗利を増やすか、そのために何を投資するか、投資後に、どの数字を変えるか、誰が実行を担当するかを整理します。

この一連の問いに答えることで、社長の頭の中にあった統合OSが、初めて文章として外に出ます。

小規模事業者では、統合OSの大部分が社長一人の頭の中にあります。社員も金融機関も、社長がどこへ進もうとしているかを十分に共有できていない場合があります。

様式2を使って文章にすれば、社内で説明できます。金融機関にも説明できます。投資判断や翌年の振り返りにも使えます。

持続化補助金の価値は、補助金が入ることだけではありません。自社の進む道を、自分の言葉で描いた最初の計画が手に入ることです。

6.1億円の先、3億円・10億円への階段
1億円は終点ではありません。小規模事業者が、組織で稼ぐ会社へ移る入口です。

1億円に到達した後は、3億円水準を視野に入れます。3億円では、社長と数人の社員が何とか回す体制から、営業、現場、管理の役割分担がより明確な組織へ移る必要があります。

規模の階段は、次のようにつながります。

①1億円
小規模卒業への入口です。社長個人から組織で売る経営へ移ります。

②3億円
組織の基盤を固める段階です。管理者、人材育成、会議、数字管理が必要になります。
なお、10億円との間に5億円、7億円を挟む説もありますが、大きく分類すると3億円は中小企業としての最低限の基準が、人的・資金的・体制的に確立している規模の目安であると言えますので、ここでは3億円を最低到達ラインとしています。

③10億円
中小企業として、経営体制を確立する段階です。部門、幹部、投資判断、外部説明を仕組みにします。なお、ここでも30億円、50億円など壁が存在する説もありますが、ここでは国の定義や分類にも沿いながら、また、大きな括りとして10億円と100億円で区切っています。

④100億円
中堅企業として、複数事業、M&A、海外、資本政策まで統合する段階です。

器を先に作る作法は、規模を問わず同じです。今いる場所から次の一段を決めます。1億円未満なら、まず原価OSと現金OSから整えます。社長の仕事を人へ分けます。強みを一点に集中します。そして様式2を使い、自社の進む道を文章にします。

当社が伴走するのは1億円で小規模卒業を目指し、その先の3億円水準で中小企業としてのポジションを固めようとする経営者のステージ以降になります。

伴走の本質は、社長に代わって計画を書くことではありません。社長自身が自社の現在地、数字、強み、投資、進路を、自分の言葉で語れる状態を作ることです。伴走型支援を希望される場合には、ぜひお問合せフォームよりご相談ください。

1億円を目指す最初の作業は、売上目標を書くことではありません。

今の売上と粗利を確認する。手元資金が月商何か月分あるかを確認する。社長しかできない仕事を書き出す。そして、伸ばす強みを一つ決める。

この四つから、小規模卒業への道筋が始まります。

投稿者: 木村 壮太郎

東京と福岡の二カ所で認定支援機関として、中小企業経営の意思決定と実行・成長を伴走型でサポートしています。 目先の打ち手に囚われずに、経営の本質から診断し、解決策の実行や新事業、経営革新をサポートします。巷で溢れる補助金やDX、AIなどはあくまで手段。事業の成長を後押しする中小企業診断士です。