【実務診断】外国人経営者がつまずく「日本人社員とのすれ違い」の正体:組織の前提を翻訳する点検チェックリスト(外国人経営者×経営OS・4日目/実務編)

0. 結論:すれ違いは性格ではなく「前提の違い」。点検できる
日本国内で法人(株式会社など)を設立し、運営されている外国人経営者にとって、日本人社員とのコミュニケーションにおける「すれ違い」は、日常的に直面する最も深刻な課題の一つです。経営上の課題については、noteをご覧ください。

なお、本記事は日本で法人を運営する外国人経営者の皆様を対象としており、個人事業での在留資格活用は扱いません。既存の法人を運営する皆様が、事業を安定して継続するための組織管理に焦点を当てます。

日本語は十分に流暢であり、日常会話や業務の基本指示は問題なく通じているにもかかわらず、なぜか期待通りの結果が出てこない、あるいは、指示したはずの業務が滞ってしまう。このような状況に直面した時、多くの経営者は「本人のやる気や能力に問題があるのではないか」と考えてしまいがちです。一方で、日本人社員の側も、「経営者の指示が理不尽である」と感じ、社内に見えない溝が広がっていくケースが少なくありません。

しかし、これらのすれ違いのほとんどは個人の性格や努力不足が原因ではありません。その背景にあるのは、文化や育ってきた環境に根ざす「前提の違い」という組織の仕組みの問題です。この違いを論理的に理解し、自社のどこにずれが生じているのかを点検することで、仕組みとしての対策が見えてきます。

在留資格の具体的な判断や申請、条文解釈は行政書士や弁護士の領域であり、就業規則の作成や社会保険の手続きなどの労務実務は社会保険労務士(社労士)の専門領域です。本記事では中小企業診断士の立場から、それらの法的な手続きの前提となる事業と一体になった組織の設計や運用、及び社内の前提の翻訳の実務手順について解説します。

1. なぜ言葉は通じるのに伝わらないのか
「言葉は通じるのに伝わらない」という現象の正体は、語学力そのものではなく、言葉の奥にある前提の違いにあります。例えば、経営者が社員に対して「この資料をできるだけ早めに作成してください」と指示を出した場面を想定します。

この時、外国人経営者の頭の中にある「早めに」とは、多くの場合「今日の夕方まで」あるいは「明日の朝一番まで」を意味しています。しかし、指示を受けた日本人社員の頭の中では、「今抱えている通常業務を終えて、手が空いたら着手しよう。明日か明後日までに提出すれば問題ないだろう」と解釈されることがあります。

結果として、翌朝になっても資料が提出されず、経営者は「なぜ指示通りに動かないのか」と不満を抱き、社員は「急ぎなら明確に期限を言ってほしかった」と戸惑うことになります。

このすれ違いの背景には、一つの明確な軸が存在します。それは「すべての必要を言葉にする文化(テキスト文化)」と、「言葉にしない文脈や察しで補い合う文化(コンテキスト文化)」の違いです。

多くの海外のビジネス環境では、言葉にして明確に伝えること、および書面に残されていないものは「存在しないもの」として扱うことが基本です。一方で、日本のビジネス社会、特に大企業よりも中小企業、または本社の管理部門よりも営業や製造などの現場ほど、言葉をあえて絞り、周囲の状況や文脈を察して動く文化が深く根づいています。

この日本の「言葉にしない文化」は、決して劣っているわけではありません。むしろ、長く続く信頼関係や同じ背景を共有している者同士の間では、最低限の言葉を交わすだけで瞬時に多くの意図を伝え、効率的に業務を推進できるという、別の優れた効率性を持つ仕組みです。

外国人経営者が日本の中小企業を率いるということは、最も「言葉にする文化」を持つ経営者が、最も「言葉にしない文化」が残る現場に飛び込み、指揮を執るという組み合わせになります。どちらの文化が正しい、あるいは優れている、という問題ではありません。互いの前提が全く異なるという事実を認識し、そのずれを埋めるための「翻訳」が必要になるのです。

2. 自社のすれ違いを点検する
社内で発生している具体的なすれ違いを洗い出すために、日常のビジネスシーンにおけるチェックリストを活用します。「仕事の進め方」と「ルールの決め方」の二つの側面から、自社の現状を点検してください。

①仕事の進め方に関するチェック項目

□ 指示を出す際、「早めに」「適当に」「いい形で」といった曖昧な表現を多用しており、具体的な数値や期限を共有していない

□ 社員からの報告が結果の報告にとどまっており、途中のプロセスや進捗状況(トラブルの予兆など)を事前にすり合わせる機会が不足している

□ 会議の場で経営者は「その場で各自が意見を戦わせる場」と考えている一方で、社員は「事前に根回しを終えた決定事項を確認する場」と捉えており、発言が極端に少ない

②ルールの決め方に関するチェック項目
□ 昇給や賞与の評価基準が経営者の頭の中にしかなく、社員から見て「何を達成すれば評価されるのか」が不透明である
□ 業務上の重要な意思決定がどのようなプロセスで決まるのか、その通り道が社員に開示されておらず、突然ルールが変わったように見えている
□ 経営者と社員の間で、口頭による合意(約束)の重みに認識のずれがあり、経営者が「アイデア段階」として話したことが、社員には「確定した指示」として受け止められている

これらの項目に多くチェックが入る場合、個人の人間関係の良し悪しに関わらず、組織の仕組みとして前提のずれが積み重なっている可能性が高いと言えます。

3. 要所を言葉にする手順
前提の違いを解消するための「翻訳」とは、日本人社員に自国の文化を捨てさせて自国のやり方に無理に合わせる(同化させる)、ということではありません。また、経営者が日本のすべての商習慣に無条件に従うことでもありません。両方の前提を見えやすい形にした上で、特定の場面において「この会社ではどのようなルールで仕事を進めるか」を一つに定める作業です。

すべての業務プロセスを完全に言葉に置き換えようとすると、日本の現場が持つ「察して動く軽やかさ」や機動力が失われてしまいます。逆に、何も言葉にしないままでは、いつまでもかみ合いません。重要となる要所だけを言葉にし、どこから先を現場の文脈や判断に委ねるか、その線引きを行うことが実務の手順となります。

①手順1:時間と数字の絶対化
まず、日常のコミュニケーションから、曖昧な言葉を排除します。例えば、「早めに」という表現を「明日10時まで」とするだけで、現場の認識は大きく変わり、直感的な理解が一気に進みます。「売上を上げる」ではなく、「今期の粗利益額を、前期比〇%増加させる」というように、解釈の余地が生まれない絶対的な数値に置き換えます。

②手順2:報告のタイミング(チェックポイント)の定義
仕事の丸投げを防ぐため、業務の開始から完了までの間にどの時点で報告を入れるべきかのルールを定めます。例えば、「業務全体の進捗が30%に達した時点(方向性の確認)」「トラブルが発生しそうな兆候が見えた時点」など、タイミングを事前に言語化して共有します。これにより、社員の「過程も見てほしい」という心理と、経営者の「結果を早く知りたい」という要求を仕組みとして両立させます。

③手順3:評価基準の可視化
評価の基準が見えない状態が続くと、日本の優秀な社員ほど不満を口にせず静かに組織を離れていきます。どのような行動が推奨され、どの数値を達成すれば評価に繋がるのか、その評価の軸を明確な言葉として書き出し、社内に提示します。

4. よくある詰まり方
組織の再構築を進める際、外国人経営者が陥りやすい典型的な失敗パターンとその結果について解説します。これらは、構造的な問題を個人の問題と混同してしまうことから生じます。

①パターン1:「日本語が話せるから理解しているはず」という誤解
最も頻繁に見られる詰まり方です。日常の会話がスムーズであるため、言葉の奥にある「仕事への取り組み方」や「約束に対する重要度の捉え方」まで共有できていると思い込んでしまいます。その結果、決定的な場面でのすれ違いが発生し、「裏切られた」と感じるような相互不信に発展します。

②パターン2:すれ違いの原因を「本人の性格や能力」のせいにする
問題が発生した際、仕組みの改善ではなく、該当する社員の能力不足や姿勢の問題として片付けてしまうケースです。これを行うと、経営者は自社に合う理想の人材を探して採用と離職を繰り返すことになり、組織にノウハウが一切蓄積されません。

③パターン3:「就業規則や制度を作れば組織は自動的に動く」という過信
労務の専門家に依頼して立派な就業規則や人事評価制度を書類として作成しただけで、実務の運用が変わらないパターンです。制度を作することと、それを日々の現場で毎期運用し続けることは全く別物です。実態が伴わない制度は、かえって、社内の不信感を強める原因になります。

5. 組織が崩れると事業全体が揺らぐ
2025年10月16日に施行された、在留資格「経営・管理」に係る許可基準等の改正により、既存の法人であっても2028年10月16日までの経過措置期間の中で、事業の実態や継続性が厳しく問われるとされています。ここで認識すべき事実は、社内の信用(組織の安定性)が崩れると、それは一過性の社内問題にとどまらず、事業全体の土台を揺るがすという連鎖の仕組みです。この状態は、一定の条件が揃うと、短期間で一気に顕在化します。

経営管理ビザの更新や事業の継続において、信用は「入管」「銀行」「取引先」「社内」の4つの層で構成されています。社内の組織信用は、この4層の最上位に位置しながら、同時に最下層の法的資格や資金調達を内側から支える役割を持っています。社員の離職や組織の不安定化は、売上、取引、雇用体制、事業継続性に影響し、その結果として、更新時の説明にも影響し得ます。実態としての組織の安定性は、新制度における継続性評価の重要な要素になります。

前提のずれを放置した結果、社内での離職が始まると、その影響は、短い期間で表面化します。実務を支える重要な日本人社員が1名離職するだけで、取引先との継続的な商売(取引先の信用)に支障が出ます。それが売上の減少や財務の悪化を招けば、金融機関からの融資や口座維持(銀行の信用)に影響が及び、最終的には、経営管理ビザの更新審査(入管の信用)における企業の継続性評価を引き下げることになります。

組織を整えることは、資金やリソースに余裕がある会社だけが取り組む福利厚生のようなものではありません。日本国内で外国人経営者が事業を存続させるための、不可欠な経営インフラそのものです。

6. 誰に何を頼むか
これらの組織の課題に対処するためには、専門家の役割を正しく理解して、適切に連携していくことが必要です。

就業規則の作成や労働基準法に準拠した労務の管理、社会保険の手続きといった法的・制度的な実務は、社会保険労務士(社労士)の専門領域です。法を遵守した正しい受け皿を作るために、社労士の力は欠かせません。

一方で、その法的な制度や規則を自社の実際の「事業計画」や「日々の業務プロセス」「収支改善の目標」と密接に結びつけ、活きた組織として機能させる設計を行うのは、中小企業診断士の領域です。これは、事業の設計と組織の設計を切り離して考えることができないためです。売上をいくら上げるかという数値計画と、それを誰がどのような進め方で達成するかという組織設計が一致して初めて、組織は機能し始めます。

それぞれの専門家が持つ領域を組み合わせることで、実態を伴った強い経営基盤が構築されます。

7. 今からの一歩

社内の前提のずれを解消し、持続可能な組織へと舵を切るために、今週中に着手できる3つの点検行動です。

□ 直近3ヶ月の中で、日本人社員との間で発生した「指示通りに動かなかった事例」を1つ選び、そこに潜んでいた曖昧な言葉(「早めに」など)を書き出す

□ 自社に現在、明確な文書として共有されている、「評価の基準」や、「業務の進捗報告ルール」が存在するか、有無を確認する

□ 自社の事業目的と、現在の常勤職員が担当している日々の実務内容が、論理的に一致しているか再点検する

ご相談について/免責
本記事に記載されている情報は、公開されている法制度の情報及び実務的な動向に基づき、執筆時点において管理上の論点を整理したものです。出入国在留管理庁による審査は、企業の財務状況、経営者の経歴、事業の安定性や継続性などを総合的に考慮して、個別に判断されるため、本記事の内容が特定の許可や在留資格の更新を保証するものではありません。最新の制度詳細や正確な要件については、必ず出入国在留管理庁の公表情報を確認してください。

また、法的な在留資格の手続きや申請実務については行政書士や弁護士に、就業規則や労務の法的実務については社会保険労務士にそれぞれご相談ください。

私ども中小企業診断士が担うのは、事業と一体になった組織設計(前提のずれを見える形にし、要所を言葉に変え、評価や決定のルールを実務で運用できる形に組むこと)、許可後の確実な運用、そして毎期の経営状況に応じた収支改善に伴走することです。「外部からの一時的な研修」を行って終わるのではなく、社長が現場の社員と本質的な意味で通じ合い、事業を動かせる状態を毎期保ち続けるための経営伴走を提供します。

ご相談を希望される場合には、ぜひお問合せフォームよりご相談ください。

組織の中にいる当事者同士では、日常の当たり前になっている「前提のずれ」を客観的に見つけ出すことは非常に困難です。だからこそ、外からの目を入れて、毎期の運用の仕組みを維持し続けることに関わりとしての値打ちがあります。完成された組織の形がまだなくても、まずは現在のすれ違いがどの段階にあるかの整理からいつでもご相談を始めることが可能です。