0.はじめに
連載6日目の本日は、昨日の「人的リソース配分」という社内の課題から一歩外へ踏み出し、経営の最優先事項である「売上拡大」、そしてそれを決定づける「土俵(市場・ポジション)の再定義」について深掘りしていきます。
noteの記事でも触れた通り、売上を追うことは経営者の義務です。しかし、ただ闇雲に営業を強化して既存の仕事を増やしたり、新しいことにやむくもに手を出すだけでは、今の時代、かえって会社を疲弊させることになりかねません。本稿では、私が提唱する「5ステージ診断」をベースに、どのように土俵を再定義して、価格決定権を取り戻しながら、持続的な売上拡大を実現するのか。その実務的なステップを解説します。
1.なぜ今、「売上至上主義」への回帰が必要なのか
昨今の経営環境において、「売上よりも利益率が大事だ」という声がよく聞かれます。もちろん、利益なき売上は無意味ですが、「売上高を追わなくていい」という解釈は、現代のインフレ局面においては注意が必要です。
原材料費や諸経費の上昇、社会保険料や最低賃金の引き上げ、金利の上昇など、経営を圧迫する「支出」の増大スピードは加速しています。このコスト増を吸収して、さらに次なる投資(経営OSの刷新)の原資を確保するには、分母の「売上高(トップライン)」の絶対的な拡大が不可欠なのです。
では、具体的にどのような「売上拡大」を狙うべきか。それはもちろん、単なる既存の御用聞き営業の延長ややみくもに他分野に手を出すことではなく、例えば以下のような「収益構造の多角化」を経営OSに組み込むことを意味します。
- 単価と頻度の向上: 適切な価格転嫁に加え、既存顧客へのアップセル(上位商品)やクロスセル(関連商品)の提案。
- 提供形態の拡張: リアル店舗や対面営業に加え、オンライン販売やデジタルサービスの併用(多展開)。逆に、オンラインのみの事業者はリアル・対面要素の追加。あるいは、リアルとオンラインの融合による提供。
- 収益モデルの変革: 単発の売り切りから、サブスクリプションや会員制といった、継続課金モデルへの移行(多方式化)。
- レバレッジの活用: 自社単独の労働力に頼らず、他社資本を活用したフランチャイズ(FC)化や代理店網の構築、戦略的提携による販路拡大。
- 新領域への挑戦: 既存事業で培った強みを活かし、全く新しい市場や顧客層を開拓する新製品や新事業の開発。(これは、既存事業の分野の中での新製品・新事業、関連分野や全く異なる分野での新製品・新事業のどちらも考えられます。)
これらはすべて、売上の「額」だけでなく「質」を変えるための選択肢です。
しかし、これらの戦術をいくら繰り出しても、成果が残らない場合があります。それが「土俵」の問題です。
2.5ステージ診断で可視化する、努力が空転する構造
売上を拡大しようとする際、まず自社の現在地を客観的に把握するために、私が独自に用いている「5ステージ診断」を活用します。ここでの整合性を欠いたままアクセルを踏むことこそが、経営の「バグ」を生む原因です。
- 時流: 中長期的な社会・市場の変化(人口、インフレ、技術革新、法改正、市場等)
- アクセス: 市場・顧客に持続可能な形でのアクセス力(販路、技術、資金、力関係など)
- 商品性: 自社製品・サービスの質、顧客にとっての真の価値(選ばれる理由)
- 経営技術: 財務管理、仕組み化、戦略構築、マーケティング(効率的な運営)
- 実行: 現場の遂行力、スピード、改善の継続(やり抜く力)
ここで、経営努力が成果に結びつかない最大の要因は、やはり「時流」と「アクセス」の不整合にあります。
①「時流(衰退市場)」との向き合い方
自社の商圏が中長期的に人口が減り続ける商圏、自社の属するのが衰退産業など、時流そのものが逆風である場合は深刻です。
※ここで誤解していただきたくないのは、「その業種や地域がダメだ」と否定しているわけではないということです。同じ業種であっても、例えば地場産業が「オンラインでの直接販売」に切り替えて全国の顧客にアクセスしたり、製品にストーリーを載せて商品性を高めたりすることで、見事に勝ち筋を見出している例は無数にあります。 また、同じ業界でも人口増加地域と人口減少地域、人口構成で全く異なりますから、ジャンルや地域、客層、年齢、性別、細分化したカテゴリーなどで細かく判断してください。
大切なのは「今のままの土俵」が中長期的な時流と合致しているかを、冷徹に点検することです。逆風であった場合には、根本的な土俵の見直しが必要ですし、追い風の場合にも今の状況が今後も持続するのか、他にもよい土俵がないのかを調査し、順調なうちに次の戦略を立て、準備していくことが重要です。
②「アクセス(下請け)」という構造的課題
例えば、「再生可能エネルギーへの転換」「半導体生産増強」という強力な時流があったとします。しかし、自社がこれらの産業の関連部品の加工会社だっとして、アクセスが「特定のメーカー1社への部品供給(下請け)」に限定されていたらどうでしょうか。
市場全体が盛り上がっても、価格決定権が元請けにあれば、コスト高騰分を価格に転嫁できず、忙しいのに利益は減るという現象が起きます。また、元請事業者の経営の動向に常に左右され、生産調整で減産されたり、他の下請けと同列に価格で比較され値下げ圧力を受けるリスクが高まります。これは「能力不足」ではなく、「アクセスの土俵が、根本的に利益を残しにくい構造」であることが原因です。
3.「土俵の再定義」と売上拡大の3本柱
では、どのようにして勝てる土俵へとシフトし、売上を拡大させていくべきか。以下の3つの打ち手をセットで実装することが、新しい経営OSの核心となります。
① 既存事業の収益改善(価格決定権の奪還)
インフレ下において、コスト増を価格に反映できないのは経営OSのバグです。
【具体例】
単なる受託加工から、企画・設計段階から深く入り込むパートナーシップへ。あるいは自社独自のラインナップを持つことで、「比較されない価値」を構築し、価格を自社でコントロールできるようにします。
② 土俵の再定義(マーケット・シフト)
5ステージ診断に基づき、アクセスと時流を再設計します。
【具体例】
1社依存の下請け構造から脱却し、複数の元請けとの分散取引化を目指す、あるいは、エンドユーザーへの直販へシフトし、中抜きのマージンを自社の利益へ変えます。
また、自社技術を活かした独自製品の開発も目指す等も、方向性として考えられます。5日目に解説した、「3〜5年で売上3割」を作る計画は、まさに「縮小しつつある土俵」から「成長が期待できる土俵」への引っ越し作業に他なりません。
③ 整合性のある売上目標の設定
5日目のシミュレーション(新事業売上高20~30%)に基づき、リソースと目標をリンクさせます。
- 既存事業を8割の人員で維持しつつ生産性を高め、残りの2割を新事業という「未来への投資」に割く。
- 新規売上比率が20〜30%となる計画は、実務的にも「アクセス」を再構築する上で、最も現実的かつ強力なシナリオとなります。
4.補助金を「延命」ではなく「跳躍」に使うために
多くの経営者が、補助金が出るからという理由で、既存の下請け仕事の効率化のために設備を導入しようとします。しかし、それは「負け確のアクセス」に、自らを固定してしまう行為になりかねません。
補助金を活用すべきなのは、「土俵の移設(OSの刷新)」を伴う投資です。
【具体例】
下請けから自社ブランド化し、全国へ直販するためのデジタルプラットフォーム投資。あるいは、衰退市場を脱し、中長期的な成長分野(環境、デジタル等)へ参入するための新製品開発。
「採択されるための計画」ではなく、「5ステージの整合性を整え、売上を質から変えるための計画」を描いてください。それこそが、本物の経営デザインです。
5.最後に:経営者の「覚悟」がOSを動かす
売上を拡大し、土俵を変えることは、決して楽な道ではありません。 しかし現在の激動の時代において、「今のままの土俵」に留まり続けることのリスクは、変化することの恐怖を遥かに上回ります。
今あなたに必要なのは、闇雲に動くことではありません。自社の「5ステージ」を冷静に点検し、どこに構造的なバグがあるのかを見極め、「どこで戦えば、自分たちの価値が最大化されるのか」を再定義することです。
明日の最終回では、この全7回にわたる「経営OS刷新」の旅を締めくくり、この激動の時代を共に歩むパートナーシップの在り方についてお話しします。
もちろん、自社の土俵の再設定が容易でないことは、どの会社もそうです。
「そもそも、自社がどの土俵にいるのか」
「考えられる、今後より位置すべき土俵はどこなのか」
と、お悩みになることかと思います。
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