【実務編】その数字は、何を示しているか? ―― ローカルベンチマークで見る「現状の実態」【シリーズ第2回(全7回)】

0.はじめに
本シリーズ・「現状打破入門シリーズ(全7回)」の2日目です。1日目は全体像を俯瞰し、現状維持がどれほど危険かを共有しました。今日は、その危険を具体的な数字で確認する番です。使うツールは、経済産業省のローカルベンチマーク(以下、ロカベン)。

note版ではこれを5ステージ分析の診断機として位置づけましたが、ブログ版ではより実務的に踏み込みます。

「うちの会社は順調だ」という感覚をお持ちなら、ぜひその感覚を、ロカベンの数字と照らし合わせてみてください。数字は感情に左右されません。客観的なデータと自社の現状を静かに比べることが、現状打破の第一歩です。

補助金や投資の話をする前に、まず「今自社はどこにいるのか」を確認しましょう。

1.「順調です」という感覚と、数字のズレ

中小企業の経営者からよく聞く言葉があります。
「うちは安定してるよ」「去年も黒字だったし」
その感覚は大切です。しかし、感覚だけでは確認できないことがあります。

ロカベンはその感覚を財務6指標と非財務4項目で業界平均と比較し、レーダーチャートで可視化します。「順調」という認識が正しいのか、それとも見えていない課題があるのかを、客観的に確かめるためのツールです。

たとえば、年商2億円の製造業A社。社長は「売上は横ばいだけど、安定してる」と言います。しかしロカベンの売上高増加率を見ると、業界平均の+5%に対して自社は-2%。営業利益率は平均8%のところ、3%にとどまっています。これを「順調」と判断してよいかどうか、数字を見れば検討の余地が見えてきます。

様々な打ち手を検討する前に、まずこの数字を直視することが重要です。
ロカベンの数字は、「頑張っている」という実感とは別に、経営の構造的に抱える課題を示しています。

2.「労働生産性」は、土俵(時流・アクセス)の成績表

ロカベンの核心指標の一つ、一人当たり付加価値額(労働生産性)。計算式は「(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数」です。業界平均が500万円のところ、自社が300万円であれば、それは「土俵選びに課題がある」ことを示しています。

5ステージ分析でいう、ステージ1(時流:40%)とステージ2(アクセス:30%)の問題になります。この70%に課題があれば、下流の経営技術(10%)をいくら改善しても成果には限界があります。

典型的な例が、下請け中心の町工場B社です。親会社からの発注で日々忙しいものの、ロカベンを見ると、労働生産性が平均の7割にとどまっています。この状態で補助金を使って最新機械を導入しても、売上単価が変わらなければ、生産性の根本的な改善にはなりません。なぜなら、時流(市場の追い風)とアクセス(資金・人材・販路)の上流に、課題があるからです。

補助金コンサルはよく、「補助金で、生産性を上げましょう」と提案しますが、それはステージ4(経営技術)の10%に働きかけているに過ぎません。本当の課題が上流の70%にあるなら、そこから見直すことが先決です。

【労働生産性 簡易診断チェックリスト】

  • 過去3年の売上高増加率:業界平均以上か?(Yes/No)
  • 一人当たり付加価値額:平均の80%超か?(Yes/No)
  • 人件費比率:売上の30%以内に抑えられているか?(Yes/No)

Noが2つ以上の場合は、時流とアクセスの見直しを検討するタイミングです。
計算式:(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数で確認ができます。

3.財務6指標:過去から現在の「経営の実行結果」

以下、財務6指標を一つずつ確認します。これらは、過去から現在の経営の実行結果を示すもので、5ステージのどこに課題があるかを数字で整理するために使います。

(1) 売上高増加率(売上持続性)

主にステージ1(時流)の適合度を測ります。市場の成長に追いつけているかを示します。

【具体例】業界平均が+10%の成長市場(例:再生可能エネルギー関連)で、自社が+2%にとどまっている場合は、時流の「波」に乗れていないことを示します。例えば建設業C社では、インフラ投資ブームにもかかわらず、売上が横ばいです。原因を調べると、古い技術に依存しており新規入札にアクセスできていないことがわかりました。補助金で機械を入れる前に、売上が増えない構造的な原因を確認することが重要です。

(2) 営業利益率(収益性)

ステージ2(アクセス)の質、特に「販路」と「技術」の付加価値を反映します。

【具体例】平均8%のところ4%なら、価格競争に巻き込まれている可能性があります。食品加工D社の場合、スーパーへの卸しで価格を押さえられており、利益率が低い状態です。設備を更新しても根本的に販路の構造が変わらなければ、利益率の改善にはつながりません。アクセス(直販ルートの開拓など)の強化を優先して検討すべき状況です。

(3) 労働生産性(生産性)

ステージ2(人材)と、ステージ4(経営技術)の融合度。一人当たりどれだけ価値を生んでいるかを示します。

【具体例】平均600万円の製造業で自社が400万円であれば、土俵(時流・アクセス)の問題が、数字に出ています。金属加工E社では、人手不足で残業に頼っているものの、生産性が低い根本原因は下請けの低単価仕事にあります。補助金でロボットを導入しても単価が変わらなければ、忙しさと利益の薄さは変わりません。平均の70%以下ならば、上流の70%を見直すきっかけとして捉えてください。

(4) EBITDA有利子負債倍率(健全性)

資金アクセスの余力。借金返済能力を示し、投資余地を測ります。

【具体例】倍率が高い(借金過多の)状態では、不測の事態への対応が難しくなります。運送業F社では燃料高騰で利益が減少し、倍率が悪化。結果として補助金申請の際に、銀行対応が難しくなりました。現状維持を続けると、借金だけが積み上がり、次の投資判断が取りづらくなります。健全性を回復させる計画を持つことが重要です。

(5) 営業運転資本回転期間(効率性)

供給(生産)アクセスの目詰まり。在庫や回収の速さを示します。

【具体例】業界平均60日のところ90日かかっている場合、資金が長期間滞留していることを意味します。小売G社では在庫滞留でキャッシュフローが悪化しています。管理システムを入れても商流(アクセス)が変わらなければ回転は改善しません。需要予測の見直しなど上流からの改善を検討することが必要です。

(6) 自己資本比率(安全性)

意味:借金依存度を示し、長期的な事業継続力を測ります。

【具体例】業界平均40%のところが20%の場合、リスクへの耐性が低下しています。サービス業H社ではコロナ後遺症で比率が下がり、現状維持では回復が見込めない状況です。補助金に頼る前に、資本増強か事業の見直しを検討するタイミングです。

財務6指標は、一つひとつの数字を単独で見るのではなく、レーダーチャートで全体を俯瞰し、課題の所在を確認するために使います。

3.非財務4項目は「財務悪化の前兆」を示す

ロカベンの非財務4項目(経営者・事業・関係者・内部管理)は、財務数字の「原因」を整理するためのものです。たとえば「関係者への着目」で顧客との対話が少ない場合、それはステージ2(アクセス)の販路に課題があるサインです。IT活用(内部管理)が遅れているなら、経営OSが未更新で、変化への対応力が低下している可能性があります。

C社の例:社長は「チームの結束は固い」と言いますが、ロカベンの非財務を確認すると内部管理のIT化が進んでいません。結果として業務フローがアナログのままでミスが発生し、財務の効率性にも影響が出ています。補助金でソフトウェアを導入しても組織の習慣が変わらなければ、効果は限られます。非財務は、「数字が悪化する前の警告灯」として活用してください。

(1) 経営者への着目

経営者の、「意思決定の型(OS)」がアップデートされているか。データに基づく判断ができているか。

【具体例】「経験で十分」という判断に依存している場合、OSが古く5ステージの設計が機能しにくくなります。製造業I社では社長の勘と感覚だけで投資判断をしていたため、非財務上の意思決定プロセスが不明確で、財務の健全性が低下していました。撤退基準が文書化されているかどうかが、一つの確認ポイントです。

(2) 事業への着目

技術・人材アクセスを活かした商品性(ステージ3)の裏付け。自社固有の強みが、明文化されているか。

【具体例】特許や独自技能が曖昧なままだと、差別化の根拠が弱くなってしまいます。ITサービスJ社では非財務上の独自ノウハウが整理されておらず、結果として商品性が弱く収益性の低下につながっています。自社の強みを3つ挙げられるかどうかが、確認の出発点です。

(3) 関係者への着目

販路・信用アクセスの広がり。新規顧客開拓や金融機関との対話の質。

【具体例】特定の取引先に依存している場合、アクセスの脆弱性が高まります。卸売のK社では顧客との対話が少なく、販路が限定されており、財務の効率性にも影響が出ています。新規取引先への販路を持っているかが、外部変化への耐性を左右します。

(4) 内部管理体制への着目

意味:経営技術(ステージ4)の定着度。IT・マニュアルの活用度。

【具体例】アナログ管理が続いている場合、社長への依存度が高く組織としてのスケールが難しくなります。小売L社ではIT化が進んでいないため業務ミスが多発し、財務の生産性にも悪影響が出ています。マニュアルがチームで共有されているかどうかが、組織の現状を測る一つの指標です。

非財務4項目に課題があれば、財務悪化の前兆として受け止め、早めに対処することが重要です。

4.Day 3(経営デザインシート)へ進むための「現状確認」

ロカベンは、単なる診断ではなく、明日の経営デザインシートへの橋渡しです。今日の「不都合な真実」を確認して初めて、未来を描く作業に意味が生まれます。たとえば、労働生産性の低さを認識してこそ、デザインシートで、新しい土俵(時流・アクセス)を設計することができます。

D社の社長はロカベンの数字を見て「こんな数字、参考にならない」と判断しました。その後、補助金で投資を進めたものの回収できず、資金繰りが悪化したそうです。今日の数字を正確に把握することが、明日の意思決定の質を左右します。

ロカベンのスコアが、業界平均を大きく下回っているなら、それは現在の事業モデルを見直すサインです。同じ土俵で続けても成果が出にくい状態が続く可能性があります。まず現状を確認し、そこから次のステップを設計していくことが、適切な経営OSの起動につながります。

5.「1つの数字から」を着実に実行する

note版でも触れた通り、「1つの数字からでいい」というのは、決して甘さではなく戦略です。一人当たり付加価値額から目を逸らさず、現実を確認することから始まります。

E社の社長は「1つだけ見てみたけど、悪くないよ」と感じました。しかし、業界平均と比べると下回っていることがわかりました。1つの数字を起点に、全体を確認していく習慣が、現状打破の第一歩になります。

補助金コンサルの提案を受け入れる前に、まずロカベンで自社の現在地を確認する。
それが、戦略的な経営判断の土台になります。今日のチェックリストを使って、まず1つの数字を確認してみてください。

もし、ロカベンがうまく記入できない、あるいは結果に対して、何が問題なのかがよくわからないという方は、ぜひご相談ください。

ロカベンの前段階からの、貴社の立ち位置を捉えながら、現状の診断と今後に向けてを伴走型でサポートします。

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※対象:原則として設立3年以上(最低2年以上)・従業員10名以上(5名程度から応相談)の法人様とさせて頂いております。(初回最大1時間無料)

【次回予告】
明日は今日確認した現状を活かし、経営デザインシートで未来の土俵を描きます。
現在地が明確になったからこそ、目指すべき方向が見えてきます。