【実務編】8:2は精神論ではない。10億→12.5億を成立させる「リソース逆算」と「評価OS」(シリーズ第5回/全7回)

0.はじめに
結論から言うと、新規事業は「やる気」や「補助金」だけでは立ち上がりません。実務では、リソース配分(8:2)と評価OSを先に設計できた企業ほど、新規が継続し、成果につながりやすくなります。

そして、補助金(新事業進出)の世界で頻出する「新規比率10%〜30%」という帯域も、審査員の好みというより、実務的に成功確率が高い“成立ゾーン”であるため、制度設計上も重視されやすい、という構造があります。
※もちろん、新事業の属する業界や市場、トレンドなどもあるので一概には言えない面もありますが、おおよその目安と捉えるとよいでしょう。

本テーマの経営上の捉え方は、姉妹編のnoteをご覧ください。

今回(シリーズ5日目)のテーマは次の2つです。

  • リソース逆算シミュレーション(10億→12.5億の実装計画)
  • 評価の二階建てOS(既存=結果/効率、新規=プロセス/行動)

この2つが腹落ちすると、「人が足りない」という嘆きは論点が変わります。問題は多くの場合人数ではなく、配分が足りない評価が壊れているという構造にあります。

1.なぜ新規比率10%〜30%が黄金比なのか(審査側と実務側の一致)
まず実務感覚として、新規比率は大きく3つに分かれます。ここで言う比率は売上比率だけでなく、後ほど触れる工数比率(人の時間配分)としても同じ力学で働きます。

①10%未満が危険な理由(片手間化による学習不足)
新規比率が10%未満だと、ほぼ確実に新規が「片手間」になります。片手間になると、何が起きるか。新事業の市場探索、顧客ヒアリング、テスト販売、PoCなどの回転数が上がらず、学習が積み上がりません。

結果として「新規をやっているつもり」になり、検証が進まずに、計画が止まりやすい構造になります。

②30%超が危険な理由(既存の玉突き事故と火消し回帰)
一方で30%を超えると、既存側の負荷が上がりすぎることが増えます。既存事業は売上が出ている分、納期・品質・顧客対応の要求水準も高く、しかも人手不足環境下では少しの欠員でも現場が回りにくい。そこから人が流出すると、納期遅延、品質低下、クレーム、属人化の再燃といった「玉突き事故」が起きやすくなります。

玉突き事故が怖いのは、単に既存が傷つくことだけではありません。新規に振った人が結局「火消し」に戻され、新規が中断することです。こうして既存も新規も中途半端になり、二重損失が発生しやすくなります。

だからこそ既存事業を崩しすぎず、新規事業も片手間にしない帯域として10%〜30%が残ります。この帯域が重視されやすいのは、各種制度としても「成果が出る確率が高い計画」に寄るのが合理的だからです。

2.【10億→12.5億】増収2.5億(=20%)を作る逆算シミュレーション
ここから逆算の具体化に入ります。前提は次の通りです。

  • 現状:年商10億円
  • 目標:5年後12.5億円
  • 増分:2.5億円(=全体の20%)を新規で作る
  • 条件:既存10億円は維持(ただしインフレ・賃上げ環境下で維持難度は上がる)

このとき、経営者が最初にやるべき問いはこれです。

「既存事業の売上高10億を維持するために、どれだけ生産性向上が必要か?」

これをすっ飛ばして新規に走ると、既存事業側で先に火消しが発生し、結果として新規の人員が戻されやすくなります。計画が止まる企業の多くは、この順番で躓きます。

(1) 既存10億を守るための「守りのOS」(価格/生産性の両輪)
守りは次の2つを同時に上げる必要があります。

A:価格・単価のOS(値付け、契約、付加価値説明、顧客選別)
B:生産性のOS(標準化、業務再設計、IT導入、ムダ削減)

どちらか片方だけでは限界が出やすく、両輪が揃って初めて維持が成立します。特に、近年はコスト上昇と人材流動化が同時に進むため、守りを「削減」だけで対応すると、短期的に数字が出ても人が疲弊し、採用・教育コストで結局跳ね返ることが増えます。守りは(単価)と(生産性)の設計で行うのが現実的です。

(2) 新規2.5億を作るための「攻めのOS」(8:2の根拠)
新規事業は、売上が出る前に「見えない工数」が大量に必要になります。探索・検証・作り込み・改善が連続し、そこで学習速度が上がった企業ほど、後半で伸びます。

だから、売上20%を作るには、原則として工数の20%(8:2)を振り向ける必要がある、という構造になります。

具体イメージとして人数換算で言うと、次の通りです。

  • 20名の組織 → 4名分の工数
  • 30名の組織 → 6名分の工数

これを「今の業務+残業」で捻出しようとすると、既存が崩れやすくなります。
したがって、実務的には、既存から抜く=配分を変える必要があります。ここで摩擦が起きるのは自然です。だからこそ、摩擦を前提に設計することが、経営計画の質を決めます。

3.誰でもすぐ使える「リソース配分表」の作り方(摩擦を最小化する実務フレーム)
ここからは、読者がそのまま自社に当てはめられる型にします。議論の前に必ず配分表を作ってください。配分表がない会議は、ほぼ確実に感情論になります。逆に言えば、配分表があるだけで議論は「無理・忙しい」から「どこを削り、どう移すか」に変わります。

①ステップ1:業務を3分類する(維持/改善/成長)
業務を次の3つに仕分けします。

  • (維持) 既存事業を守る業務
  • (改善) 維持を楽にする業務(標準化・IT・教育)
  • (成長) 新規売上を生む業務(探索・検証・開拓)

ここで重要なのは(改善)です。(改善)は「余裕ができたらやる」ではなく、余裕を作るためにやるものです。言い換えると、(改善)は既存の“維持コスト”を下げ、新規へ回す工数を生むための「仕組み投資」です。(改善)ゼロのまま(成長)に振ると、維持側の摩擦が増えて火消しが頻発し、結局止まります。

②ステップ2:工数を時間で見える化する
次に、「誰が」「週に何時間」使っているかを全て書き出します。ここで初めて、20%の配分の実現性が見えます。この作業は地味ですが、効きます。

なぜなら、「忙しい」の正体が、(ムダ)なのか、(例外処理)なのか、(属人化)なのかが、数字で炙り出されるからです。

③ステップ3:20%の工数を捻出する「削る順番」を決める
削り方には優先順位があります。最初に削るべきは、誰も得をしていない“ムダ”です。ムダを削らずに人を抜くと、既存部門の不満が爆発し、移行が止まります。順番は次の通りです。

  1. ムダ(待ち/手戻り/二重入力)
  2. 例外処理(ルール未整備が原因)
  3. 属人対応(標準化できる領域)
  4. 低付加価値の顧客・案件(利益を食う取引)
  5. そもそもやめる業務

この順番で削ると、既存の品質を守りながら工数を生みやすくなります。
逆に、いきなり「人を抜く」から事故が起きます。先に(改善)で維持を軽くし、その上で(成長)へ人を振る。これが8:2を現実にする手順です。

4.評価OSが整っていないと、新規は止まりやすい(二階建て評価の導入)
新規事業がつまずく原因は、リソース不足より“評価の壊れ方”であることが多いです。評価が壊れていると、人は合理的に「損しない行動」を選びます。つまり挑戦を避け、既存に寄る。結果として新規が止まります。

既存と新規では、評価の前提が違います。既存は「結果が出る前提」なので成果ベースでよい。一方、新規は結果が出ない期間がある前提なので、学習ベースで評価しないと回りません。ここを同じ物差しで測ると、挑戦が消え、文化が死にます。

ブログでは使いやすいように、二階建てを表で整理します。

領域評価軸(KPI)補足
既存事業結果・効率(売上/粗利/
粗利率/生産性/顧客継続率/納期/品質など)
「守る」「回す」
を評価する
新規事業プロセス・行動(仮説数/検証回数/学習速度/ステージ進捗など)「前に進める」こと
を評価する

新規側でのKPIの意図は、「行動を褒める」ことではありません。学習が積み上がる行動だけを評価し、検証の回転数を上げることです。これが回り出すと、挑戦者は「結果が出るまで耐える」のではなく、「検証して前に進む」ことが正当化されます。新規事業が継続できる組織になります。

5.賃上げの持続性は「収益OS × 配分OS」で決まる
賃上げは、補助金の要件以前にインフレ環境下での生存条件です。賃上げできない企業は「人が足りない」のではなく「人が残らない」状態に近づきます。

ただし賃上げは気合では続きません。
賃上げ原資は、収益OS(客単価向上・価格転嫁・付加価値)と、配分OS(8:2の投資配分)の掛け算でしか生まれません。

収益OSが弱いまま賃上げをすれば固定費が増え、配分OSが弱いままだと新規事業の柱が育たず、賃上げ原資の再現性が生まれません。逆に、新規が伸び始めると賃上げは“経費”ではなく“成長投資”に変わります。賃上げを成長投資として扱える企業ほど、採用市場で継続的に勝ちやすくなります。

6.結論:根拠ある計画とは「玉突きを想定し、克服するシナリオ」が書けていること
事業計画書で重要なのは、単に市場分析の綺麗さだけではありません。差がつくのは、「実装可能性がどこまで設計されているか」です。

具体的には次の3点が揃っている計画です。(本記事の企業の例の場合)

  1. 既存10億を守る前提がある(価格・生産性のOSがある)
  2. 新規20%(10%〜30%)の人的投資が“配分表”として書けている(誰を、どのタイミングで、何に振るか)
  3. 評価OSが二階建てで、挑戦が継続できる(新規を既存と同じ物差しで潰さない)

補助金は(ガソリン)です。経営OSは(エンジン)です。
そしてエンジンの中身は「配分 × 評価」です。

本日の実務アクション(最小セット)】
今日やってほしいことは1つだけです。
自社の業務を(維持/改善/成長)に分け、現状の工数配分を出してください。そこから「新規20%を捻出する削る順番」を決め、最後に評価OSを二階建てに整えます。8:2は精神論ではありません。数字とOSで成立させる経営です。

次回は、この配分を実行可能にするための「会議体OS(意思決定の型)」と「四半期ロードマップ(運用設計)」へ踏み込みます。

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新事業進出補助金(第3回)解説 ⑥新事業プロジェクトチームの組成:既存事業と「二階建て」で動く組織のリソース配分

新事業進出補助金で求められる、「新市場・高付加価値」(そして賃上げ)を実現するには、申請書のための「形だけの体制図」では足りません。

必要なのは、

(1)意思決定と責任の所在が明確で、
(2)既存事業の現場を止めず、
(3)新事業側に十分な稼働(時間と人材)を実装した、

「動く組織図」です。賃上げ要件は、気合いではなく運用で守るものです。運用の土台は、結局「組織」と「配分」に帰着します。

本記事では補助金実務で求められる実施体制の考え方を踏まえつつ、既存事業と新事業の「二階建て」を成功させるための標準モデル(体制図テンプレート、リソース配分表の例、運用ルール)を提示します。


1.補助金実務における「実施体制」と「専ら」の考え方:人の話をする前に、まず財産の話を押さえる
この補助金は設備投資やシステム投資をテコにして、新市場・高付加価値の事業へ進出し、最終的に賃上げにつなげる制度です。つまり補助金の中心は「投資」であり、投資の成果は「事業化」と「付加価値」「賃上げ」で回収します。

このとき、実務上の大原則があります。

・補助事業で取得した財産(設備、システム等)は、原則として「専ら補助事業に使用」する必要があります。
・「専ら補助事業に使用」とは、事業計画書に記載した新たに取り組む事業にのみ使用することを指し、既存事業や別事業に用いると目的外使用と判断され得ます。

ここが、組織設計と直結します。なぜなら、現場ではこういう事態が起こるからです。

例:製造業A社(従業員30名)
新事業向けに最新の加工機を導入したが、既存製品の納期が詰まり、現場が「夜だけ、既存品にも回そう」と判断。結果、稼働記録が曖昧になり、新事業の専用設備なのか、既存設備の代替なのか区別不能になる。

したがって、実施体制図で本当に示すべきは「人名の羅列」ではなく、次の3点です。

・誰が新事業の設備・システムを管理し、目的外利用を止める権限を持つか
・新事業に必要な職務(開発、営業、品質、法務、労務、会計等)を、誰がどれだけの稼働率で担うか
・既存事業との境界(設備、顧客、在庫、会計、評価)を、運用ルールとしてどう切るか

補助対象の経費は建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費等が中心で、人を投入しても「人件費を補助金で賄う」構造ではありません。だからこそ、社内リソース(人・時間)の捻出が、成否の分水嶺になります。


2.「専ら(もっぱら)従事」と「兼務」の境界線:制度要件ではなく、運用上の“事故ポイント”として設計する
人について制度上の表現でよく出てくるのが、「専ら従事」「兼務」です。ただし、注意してください。

・制度上の「専ら」は、まず取得財産(設備等)に対して強く要請されます(前節)。
・一方で、申請書や採択後の運用では「実施体制が機能するか」が問われます。これは、人の稼働実態が伴わないと破綻します。

そこで、私は実務では「専ら従事=稼働の実態が説明できる状態」と定義して、次のように線引きします(目安)。

・専任(実質専ら):新事業稼働60%以上(週3日以上が目安)
・準専任(準専ら):新事業稼働40%〜60%(週2日程度、ただし責任領域が明確)
・兼務:新事業稼働20%〜40%(実務担当者としての参加は可能だが、PMには不向き)
・片手間:新事業稼働20%未満(体制図に入れても実効性が出にくい)

「80%:20%の罠」という言葉があります。既存80、新事業20で業務を回そうとすると、ほぼ確実に新事業が負けます。新事業は未知の課題が毎週発生し、意思決定の回数が多く、学習コストが高いからです。その結果20%稼働は、週1日未満の「断片時間」になりやすく、実行の連続性が途切れます。

例:サービス業B社(従業員15名)
既存の店舗運営が忙しく、社長が「火曜の午後だけ新事業会議」と決めた。ところが、繁忙期は火曜午後も欠勤対応に吸い込まれ、1か月で会議が3回流れる。結果、外注先の開発が止まり、スケジュールが崩れ、賃上げ原資の創出どころかキャッシュアウトだけが先行する。

この事故を避けるには、「兼務でも良いが、兼務のままにしない」設計が必要です。
つまり、フェーズ移行の前提を最初から置きます。

・立上げ期:準専任を最低1名(PM)は確保する
・検証期:顧客獲得と提供オペレーションが回り始めたら、現場担当を専任化する
・拡大型:利益が出始め、賃上げ計画を実装する段階で、管理部門(財務・労務)の関与を強める


3.既存事業と新事業の「二階建て」モデル:1.5階建てから2階建てへ移行する標準シナリオ
「二階建て」とは、既存事業のKPI・意思決定・会計・評価を維持しつつ、新事業側に別の“階”を作って走らせることです。混ぜると、必ず揉めます。特に揉めるのは、
(1)人、(2)設備、(3)お金、(4)評価です。

3.1 1.5階建て(兼務中心)は、短距離走として使う
1.5階建ては悪ではありません。むしろ、初期の市場検証では合理的です。ただし条件があります。

・期間を区切る(例:3か月〜6か月)
・意思決定者(PM/社長)の稼働を確保する
・検証KPIを「売上」ではなく「学習」に置く(後述)

1.5階建てでやって良いのは、次のような「軽い仮説検証」です。

・ターゲット顧客のヒアリング(20社)
・プロトタイプの試作(1〜2回)
・価格受容性テスト(見積提出10件)
・チャネル検証(展示会1回、広告テスト1回)

この段階で、既存事業の人員をあまりに抜きすぎると本体が傷みます。だから短距離で走り切ります。

3.2 2階建て(専任チーム)は、中距離走として設計する
補助金を使って投資を行う以上、目的は「事業化」です。設備・システムは、導入した瞬間に減価償却や固定費を生みます。ここで2階建てに移れないと、投資が重荷になります。目安として、次の条件を満たしたら2階建てへ移行します。

・提供オペレーションが定義できた(誰が何を、何分で、どの品質で)
・顧客が繰り返し買う可能性が見えた(リピート兆候、継続契約の芽)
・粗利構造が見えた(単価、原価、提供回数の見通し)
・既存事業からの依存点が特定できた(設備共有、人材共有、在庫共有など)

3.3 (追補) 2階建て移行フロー(テキスト図解):迷ったらこの順で整理する
2階建ての移行は、「思いつき」でやると失敗します。そこで、現場でも使えるフローとして、意思決定の順序をテキスト図解にします。

・Step0:新事業の定義を固定する(顧客、用途、提供価値、対価)
 ↓
・Step1:検証KPI(学習KPI)を設定する(ヒアリング、提案、試作、検証回数)
 ↓
・Step2:オペレーションを定義する(標準作業、品質基準、所要時間、ボトルネック)
 ↓
・Step3:依存点を棚卸する(既存人材、既存設備、既存顧客、既存会計)
 ↓
・Step4:境界ルールを決める(専用設備の稼働ルール、受注ルール、会計区分、評価区分)
 ↓
・Step5:2階(新事業)の専任枠を作る(PM準専任→専任、営業/CS専任、オペ専任)
 ↓
・Step6:月次で「守り」を締める(証憑、稼働、資金繰り、賃金)
 ↓
・Step7:利益構造が見えたら賃上げ実装(職務・等級・評価と連動)

このフローの良い点は、(1)既存事業に迷惑をかけない順番で設計できること、(2)補助金実務(専ら使用、証憑)と、(3)賃上げ実装(評価・職務)が一本の線に繋がることです。


4.新事業プロジェクトチーム(PT)の組成ステップ:PMの権限がないPTは、ただの会議体です
新事業PTは「会議」ではなく「実行機関」です。実行機関には権限と責任が必要です。ここを曖昧にすると、既存部門の抵抗に負けます。

4.1 役割設計:最低限そろえるべき7つの役
以下が、私が中小企業で標準として推奨する役割セットです(規模により兼務可)。

・スポンサー(社長):投資判断、優先順位付け、部門間調整の最終責任
・PM(プロジェクトマネージャー):計画の実行責任、進捗・課題の管理、意思決定の起案
・プロダクト責任者(技術/サービス設計):仕様決定、品質基準、提供オペレーションの設計
・GTM責任者(営業/マーケ):顧客開拓、価格設計、販売チャネル設計
・オペ責任者(生産/提供):納期・供給能力、外注管理、現場教育
・財務・管理(経理/労務):予算統制、資金繰り、賃上げ・最賃管理のモニタリング
・コンプライアンス/法務(兼務可):契約、表示、個人情報、補助金の証憑統制

このうち、PMだけは、「専任に近い準専任」を確保してください。PMが片手間だと、課題が溜まり、外注先も止まり、現場も動きません。

4.2 エースを投入すべきか、若手を抜擢すべきか:答えは“両方”です
よくある誤解は、「エースを既存から抜くと既存が崩れる」「若手に任せると経験不足」という二択です。現実は三択です。

・PMはエース級(社長の右腕)
・実務は若手を抜擢(成長機会として設計)
・不足分は外部(専門家、外注)で補う

例:卸売業C社(従業員50名)
新市場向けD2Cに進出。営業エースをPMに据え、EC運用は若手2名を抜擢。写真撮影と広告運用は外注。経理は、月次で採算とキャッシュを監視。結果、既存の法人営業は副PM(兼務)が穴を埋め、既存も新規も両立できた。

ポイントは、PMに「決める権限」を渡すことです。権限がないPMは、社内調整だけで消耗します。

4.3 既存部門の抵抗をどう抑えるか:経営者直轄のメリットとデメリット
抵抗は必ず出ます。理由は単純で、既存部門から見ると新事業は「リスクの塊」であり「仕事を増やす存在」だからです。

そこで、経営者直轄(社長直轄PT)は有効です。メリットは次の通りです。

・優先順位を一撃で決められる
・人の引き抜き、設備の使用ルールを決められる
・目的外使用(設備の転用)を止められる(補助金実務上も重要)

一方で、デメリットもあります。

・社長依存が強くなり、社長が忙しいと止まる
・既存部門が「うちの仕事ではない」と他人事化しやすい

この欠点を補うのが「ステアリングコミッティ(意思決定会議)」です。週次はPM主導、月次は社長と部門長で意思決定、という二層構造にします。


5.実施体制図(記述例)とRACI、リソース配分表
ここからは、例になります。文章でも十分に伝わります。

5.1 実施体制図テンプレート(記述例)
 ・統括責任者(スポンサー):代表取締役 ○○
 ・役割:投資判断、最終意思決定、部門間調整、補助事業の遵守責任
 ・稼働:兼務(新事業10%〜20%)
 ・必要スキル:事業判断、資金調達、対外折衝

・PM(プロジェクトマネージャー):事業開発部長 ○○
 ・役割:全体計画、進捗/課題管理、意思決定起案、外注/専門家管理
 ・稼働:準専任(新事業50%〜70%)
 ・権限:外注発注(○○万円まで)、社内工数配分の調整起案

・プロダクト責任者:製造課長/サービス設計責任者 ○○
 ・役割:仕様決定、品質基準、提供プロセス設計、設備運用ルール策定
 ・稼働:兼務(新事業20%〜40%)
 ・留意:取得設備は「専ら補助事業に使用」を前提に、稼働計画と稼働記録を管理

・GTM責任者:営業課長 ○○
 ・役割:ターゲット選定、価格設計、販売チャネル構築、初期顧客開拓
 ・稼働:兼務(新事業20%〜40%)

・オペ責任者:現場リーダー ○○
 ・役割:納期・供給能力設計、外注先管理、現場教育、標準作業化
 ・稼働:兼務(新事業20%〜40%)

・財務・労務モニタリング:経理/総務責任者 ○○
 ・役割:予算統制、資金繰り、証憑管理、賃上げ・最賃の月次モニタリング
 ・稼働:兼務(新事業10%〜20%)

・外部支援者(必要に応じて):認定支援機関/専門家 ○○
 ・役割:計画の助言、財務モデル検証、法務/知財の助言
 ・留意:計画の作成責任は申請者側にある(作成丸投げは不可)

5.2 RACI(責任分解)テンプレート

タスクSponsorPMProductGTMOpsFinance/HR
事業計画(全体)ARCCCC
設備/システム要件定義ARRCCC
取得財産の運用ルール(目的外使用防止)ARRCRC
初期顧客獲得CRCRCC
外注/専門家の管理CRCCCC
予算・資金繰り・証憑ACIIIR
月次の賃金・最賃モニタリングACIIIR

R:実行責任(Responsible) / A:最終責任(Accountable) / C:協議(Consulted) / I:共有(Informed)

5.3 リソース配分表(標準モデル例)

例1:従業員20〜30名(製造/サービス混在)の立上げ期(最初の6か月)

役割人数新事業稼働週当たり時間(目安)主なアウトプット
PM160%24h進捗管理、仕様/外注管理、課題解決
Product130%12hプロセス設計、品質基準、設備運用
GTM130%12h顧客開拓、提案資料、価格検証
Ops120%8h標準作業、外注管理、教育
Finance/HR110%4h予算/証憑、賃金モニタリング準備
若手実務(抜擢)1〜250%20h実務運用、データ収集、改善提案

例2:従業員50名超の拡大型(2階建て移行後)

役割人数新事業稼働目的
PM180%事業化の完遂、売上計画の達成
営業/CS1〜2100%受注拡大と継続契約の確立
オペ/品質1〜2100%品質安定、納期遵守、原価低減
管理(経理/労務)120%予算・キャッシュ・賃金要件の月次統制

6. 「攻め」と「守り」の評価制度:既存の評価軸を壊さず、新事業のKPIを別建てで設計する
先ほどのブログでは、賃上げ要件を守るために「職務設計・教育・評価」を三位一体で組む重要性が語られていました。ここでポイントは、既存事業の評価制度と、新事業の評価制度を「混ぜない」ことです。

新事業は、最初から売上が立つとは限りません。にもかかわらず既存の評価軸(売上、粗利、稼働率)で測ると、挑戦者が損をします。その結果、誰も新事業に行きたがらなくなります。

6.1 攻めのKPI(新事業)は「学習量」と「検証数」を中心に置く
立上げ期は、以下のようなKPIが有効です。

・顧客ヒアリング件数(週5件等)
・提案/見積提出数(週3件等)
・プロトタイプの改善回数(月2回等)
・検証サイクルの回転数(仮説→検証→学習の回数)

これらは、事業化の「先行指標」です。売上の遅れを正当化するためではなく、成果につながる努力を可視化するために置きます。

6.2 新事業KPIの具体例:行動KPI→中間KPI→結果KPIを同一シートで管理する
ポイントは、結果(売上)だけでなく、行動と中間の指標をセットにすることです。

(例) 新事業がBtoBの新サービス(高付加価値型)の場合
・行動KPI(週次)
 ・ヒアリング件数:5件/週
 ・提案書提出数:3件/週
 ・パイロット打診数:2件/週
 ・課題仮説の更新:1回/週(学びを文章化)

・中間KPI(月次)
 ・商談化率:30%(提案→次回打合せ)
 ・パイロット獲得数:2件/月
 ・導入リードタイム:30日以内
 ・NPS/満足度:8点以上(10点満点)

・結果KPI(四半期)
 ・受注件数:5件/四半期
 ・粗利額:○○万円/四半期
 ・継続率(更新率):80%以上
 ・単価(ARPA):○○万円/月

このKPI設計にすると、売上が立つ前でも「学習が進んでいるか」を評価でき、担当者の心理的安全性が確保されます。四半期ごとに、結果KPIへ必ず収束させるため、「学習ごっこ」にもなりません。

6.3 守りのKPI(管理)は「証憑」「稼働」「賃金」を月次で締める
守りは月次で締めてください。ズレは必ず出ます。ズレが小さいうちに修正できる体制が、返還リスクを抑えます。特に、取得財産の専用性(目的外使用防止)は、運用記録で守る領域です。設備の稼働時間を把握し、計画と実績を比較する癖を、最初から付けてください。

(例) 月次の守りKPI(管理部門のチェックリスト)
・証憑:発注書、検収、支払、納品、使用開始の整合が取れているか
・稼働:新事業設備の稼働時間(計画/実績/差分理由)が説明できるか
・原価:外注費の内訳が説明できるか(何に払ったかが明確か)
・資金繰り:翌3か月のキャッシュアウト予定が見えるか
・賃金:賃金台帳・就業管理・職務設計と整合しているか


7. (追補) 現場で起きやすいトラブルQ&A:二階建てを壊す「3つの事故」を先に潰す「トラブルとQ&A」を、実務で多いものに絞って追補します。ここを最初に潰せる会社ほど、補助事業の実行が安定します。

Q1:兼務者が多すぎて新事業が進みません。何から手を付けるべきですか?
結論:PMの稼働を先に確保し、次に会議体をやめて「決める場」を作ってください。

・まずPMを準専任(50%〜70%)にする(ここが動かない限り、他は整いません)
・週次の会議は30分でよいので、決める議題を固定する(課題の棚卸、意思決定、次の検証)
・兼務者の稼働を増やせない場合は、役割を減らす(やらないことを決める)

「人が足りない」より先に「意思決定が足りない」ことが原因で止まっているケースが多いです。

Q2:既存部門が抵抗し、エースを出してくれません。社長直轄にすべきですか?
結論:原則は社長直轄が有効ですが、同時に既存部門のメリットを設計してください。

・社長直轄の効果:優先順位と人の配分が決まる
・ただし副作用:既存部門が他人事化する

対策として、既存部門側のKPIにも「新事業への協力」を最小限で組み込みます。
例として、既存部門長の評価項目に「新事業への引き継ぎ完了(仕様、品質、教育)」を入れる。これで協力する理由が生まれます。

Q3:設備が「専ら補助事業」にならず、既存にも使ってしまいそうです。どう運用設計すべきですか?
結論:ルールだけでなく「記録」と「承認」をセットにしてください。

・稼働ルール:用途、対象製品、稼働時間帯を決める
・稼働記録:日次で記録し、週次でPMが確認する
・承認フロー:例外利用(どうしても既存で使う等)も、禁止とします。

現場判断に任せると必ず曖昧になります。曖昧さが一番危険です。この既存への転用や一部利用は、監査が入った時も本当に危険ですので使用を認めないようにしましょう。


8. まとめ:賃上げの誓約を果たせるのは、正しく「二階建て」が機能したときだけです
新事業進出補助金は、資金支援ではなく、「投資によって利益構造を変え、付加価値を生み、その成果を賃上げで還元する」ことを求める制度です。その要請を現実にするのは、計画書ではなく、実行する組織です。

・PMに権限と稼働を持たせる(片手間にしない)
・既存事業と新事業を二階建てにし、摩擦をルールで制御する
・取得財産の「専ら補助事業」要件を、設備運用ルールと稼働記録で守る
・攻め(学習KPI)と守り(月次統制)の評価軸を分け、挑戦が報われる制度にする

本日のnoteでは「賃上げは覚悟であり投資である」ということを解説しました。
そして前回のブログでは、賃金・最賃を「数式で管理する」運用を提示しています。

それらを実行に移すための器が、本記事で提示した動く組織図とリソース配分です。
ここが固まれば、賃上げ要件は恐怖ではなく、経営を強くする制約条件に変わります。

新事業進出補助金院関して、お悩みをお持ちの経営者の方は、ぜひご相談ください。
初回のご相談では補助金の可否を判断する前に、まず「あなたの会社が、本当に新事業進出すべきか」という本質的な問いから始めます。その上で進むべき道が見えたなら、全力でお支えします。
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※対象:原則として設立3年以上(最低2年以上)・従業員10名以上(5名程度から応相談)の法人様とさせて頂いております。