【実務編】8:2は精神論ではない。10億→12.5億を成立させる「リソース逆算」と「評価OS」(シリーズ第5回/全7回)

0.はじめに
結論から言うと、新規事業は「やる気」や「補助金」だけでは立ち上がりません。実務では、リソース配分(8:2)と評価OSを先に設計できた企業ほど、新規が継続し、成果につながりやすくなります。

そして、補助金(新事業進出)の世界で頻出する「新規比率10%〜30%」という帯域も、審査員の好みというより、実務的に成功確率が高い“成立ゾーン”であるため、制度設計上も重視されやすい、という構造があります。
※もちろん、新事業の属する業界や市場、トレンドなどもあるので一概には言えない面もありますが、おおよその目安と捉えるとよいでしょう。

本テーマの経営上の捉え方は、姉妹編のnoteをご覧ください。

今回(シリーズ5日目)のテーマは次の2つです。

  • リソース逆算シミュレーション(10億→12.5億の実装計画)
  • 評価の二階建てOS(既存=結果/効率、新規=プロセス/行動)

この2つが腹落ちすると、「人が足りない」という嘆きは論点が変わります。問題は多くの場合人数ではなく、配分が足りない評価が壊れているという構造にあります。

1.なぜ新規比率10%〜30%が黄金比なのか(審査側と実務側の一致)
まず実務感覚として、新規比率は大きく3つに分かれます。ここで言う比率は売上比率だけでなく、後ほど触れる工数比率(人の時間配分)としても同じ力学で働きます。

①10%未満が危険な理由(片手間化による学習不足)
新規比率が10%未満だと、ほぼ確実に新規が「片手間」になります。片手間になると、何が起きるか。新事業の市場探索、顧客ヒアリング、テスト販売、PoCなどの回転数が上がらず、学習が積み上がりません。

結果として「新規をやっているつもり」になり、検証が進まずに、計画が止まりやすい構造になります。

②30%超が危険な理由(既存の玉突き事故と火消し回帰)
一方で30%を超えると、既存側の負荷が上がりすぎることが増えます。既存事業は売上が出ている分、納期・品質・顧客対応の要求水準も高く、しかも人手不足環境下では少しの欠員でも現場が回りにくい。そこから人が流出すると、納期遅延、品質低下、クレーム、属人化の再燃といった「玉突き事故」が起きやすくなります。

玉突き事故が怖いのは、単に既存が傷つくことだけではありません。新規に振った人が結局「火消し」に戻され、新規が中断することです。こうして既存も新規も中途半端になり、二重損失が発生しやすくなります。

だからこそ既存事業を崩しすぎず、新規事業も片手間にしない帯域として10%〜30%が残ります。この帯域が重視されやすいのは、各種制度としても「成果が出る確率が高い計画」に寄るのが合理的だからです。

2.【10億→12.5億】増収2.5億(=20%)を作る逆算シミュレーション
ここから逆算の具体化に入ります。前提は次の通りです。

  • 現状:年商10億円
  • 目標:5年後12.5億円
  • 増分:2.5億円(=全体の20%)を新規で作る
  • 条件:既存10億円は維持(ただしインフレ・賃上げ環境下で維持難度は上がる)

このとき、経営者が最初にやるべき問いはこれです。

「既存事業の売上高10億を維持するために、どれだけ生産性向上が必要か?」

これをすっ飛ばして新規に走ると、既存事業側で先に火消しが発生し、結果として新規の人員が戻されやすくなります。計画が止まる企業の多くは、この順番で躓きます。

(1) 既存10億を守るための「守りのOS」(価格/生産性の両輪)
守りは次の2つを同時に上げる必要があります。

A:価格・単価のOS(値付け、契約、付加価値説明、顧客選別)
B:生産性のOS(標準化、業務再設計、IT導入、ムダ削減)

どちらか片方だけでは限界が出やすく、両輪が揃って初めて維持が成立します。特に、近年はコスト上昇と人材流動化が同時に進むため、守りを「削減」だけで対応すると、短期的に数字が出ても人が疲弊し、採用・教育コストで結局跳ね返ることが増えます。守りは(単価)と(生産性)の設計で行うのが現実的です。

(2) 新規2.5億を作るための「攻めのOS」(8:2の根拠)
新規事業は、売上が出る前に「見えない工数」が大量に必要になります。探索・検証・作り込み・改善が連続し、そこで学習速度が上がった企業ほど、後半で伸びます。

だから、売上20%を作るには、原則として工数の20%(8:2)を振り向ける必要がある、という構造になります。

具体イメージとして人数換算で言うと、次の通りです。

  • 20名の組織 → 4名分の工数
  • 30名の組織 → 6名分の工数

これを「今の業務+残業」で捻出しようとすると、既存が崩れやすくなります。
したがって、実務的には、既存から抜く=配分を変える必要があります。ここで摩擦が起きるのは自然です。だからこそ、摩擦を前提に設計することが、経営計画の質を決めます。

3.誰でもすぐ使える「リソース配分表」の作り方(摩擦を最小化する実務フレーム)
ここからは、読者がそのまま自社に当てはめられる型にします。議論の前に必ず配分表を作ってください。配分表がない会議は、ほぼ確実に感情論になります。逆に言えば、配分表があるだけで議論は「無理・忙しい」から「どこを削り、どう移すか」に変わります。

①ステップ1:業務を3分類する(維持/改善/成長)
業務を次の3つに仕分けします。

  • (維持) 既存事業を守る業務
  • (改善) 維持を楽にする業務(標準化・IT・教育)
  • (成長) 新規売上を生む業務(探索・検証・開拓)

ここで重要なのは(改善)です。(改善)は「余裕ができたらやる」ではなく、余裕を作るためにやるものです。言い換えると、(改善)は既存の“維持コスト”を下げ、新規へ回す工数を生むための「仕組み投資」です。(改善)ゼロのまま(成長)に振ると、維持側の摩擦が増えて火消しが頻発し、結局止まります。

②ステップ2:工数を時間で見える化する
次に、「誰が」「週に何時間」使っているかを全て書き出します。ここで初めて、20%の配分の実現性が見えます。この作業は地味ですが、効きます。

なぜなら、「忙しい」の正体が、(ムダ)なのか、(例外処理)なのか、(属人化)なのかが、数字で炙り出されるからです。

③ステップ3:20%の工数を捻出する「削る順番」を決める
削り方には優先順位があります。最初に削るべきは、誰も得をしていない“ムダ”です。ムダを削らずに人を抜くと、既存部門の不満が爆発し、移行が止まります。順番は次の通りです。

  1. ムダ(待ち/手戻り/二重入力)
  2. 例外処理(ルール未整備が原因)
  3. 属人対応(標準化できる領域)
  4. 低付加価値の顧客・案件(利益を食う取引)
  5. そもそもやめる業務

この順番で削ると、既存の品質を守りながら工数を生みやすくなります。
逆に、いきなり「人を抜く」から事故が起きます。先に(改善)で維持を軽くし、その上で(成長)へ人を振る。これが8:2を現実にする手順です。

4.評価OSが整っていないと、新規は止まりやすい(二階建て評価の導入)
新規事業がつまずく原因は、リソース不足より“評価の壊れ方”であることが多いです。評価が壊れていると、人は合理的に「損しない行動」を選びます。つまり挑戦を避け、既存に寄る。結果として新規が止まります。

既存と新規では、評価の前提が違います。既存は「結果が出る前提」なので成果ベースでよい。一方、新規は結果が出ない期間がある前提なので、学習ベースで評価しないと回りません。ここを同じ物差しで測ると、挑戦が消え、文化が死にます。

ブログでは使いやすいように、二階建てを表で整理します。

領域評価軸(KPI)補足
既存事業結果・効率(売上/粗利/
粗利率/生産性/顧客継続率/納期/品質など)
「守る」「回す」
を評価する
新規事業プロセス・行動(仮説数/検証回数/学習速度/ステージ進捗など)「前に進める」こと
を評価する

新規側でのKPIの意図は、「行動を褒める」ことではありません。学習が積み上がる行動だけを評価し、検証の回転数を上げることです。これが回り出すと、挑戦者は「結果が出るまで耐える」のではなく、「検証して前に進む」ことが正当化されます。新規事業が継続できる組織になります。

5.賃上げの持続性は「収益OS × 配分OS」で決まる
賃上げは、補助金の要件以前にインフレ環境下での生存条件です。賃上げできない企業は「人が足りない」のではなく「人が残らない」状態に近づきます。

ただし賃上げは気合では続きません。
賃上げ原資は、収益OS(客単価向上・価格転嫁・付加価値)と、配分OS(8:2の投資配分)の掛け算でしか生まれません。

収益OSが弱いまま賃上げをすれば固定費が増え、配分OSが弱いままだと新規事業の柱が育たず、賃上げ原資の再現性が生まれません。逆に、新規が伸び始めると賃上げは“経費”ではなく“成長投資”に変わります。賃上げを成長投資として扱える企業ほど、採用市場で継続的に勝ちやすくなります。

6.結論:根拠ある計画とは「玉突きを想定し、克服するシナリオ」が書けていること
事業計画書で重要なのは、単に市場分析の綺麗さだけではありません。差がつくのは、「実装可能性がどこまで設計されているか」です。

具体的には次の3点が揃っている計画です。(本記事の企業の例の場合)

  1. 既存10億を守る前提がある(価格・生産性のOSがある)
  2. 新規20%(10%〜30%)の人的投資が“配分表”として書けている(誰を、どのタイミングで、何に振るか)
  3. 評価OSが二階建てで、挑戦が継続できる(新規を既存と同じ物差しで潰さない)

補助金は(ガソリン)です。経営OSは(エンジン)です。
そしてエンジンの中身は「配分 × 評価」です。

本日の実務アクション(最小セット)】
今日やってほしいことは1つだけです。
自社の業務を(維持/改善/成長)に分け、現状の工数配分を出してください。そこから「新規20%を捻出する削る順番」を決め、最後に評価OSを二階建てに整えます。8:2は精神論ではありません。数字とOSで成立させる経営です。

次回は、この配分を実行可能にするための「会議体OS(意思決定の型)」と「四半期ロードマップ(運用設計)」へ踏み込みます。

このテーマに関して相談をご希望の場合は、こちらのお問い合わせフォームからご連絡ください。
※対象:原則として設立3年以上(最低2年以上)・従業員10名以上(5名前後から応相談)の法人様とさせて頂いております。

投稿者: 木村 壮太郎

東京と福岡の二カ所で認定支援機関として、中小企業経営の意思決定と実行・成長を伴走型でサポートしています。 目先の打ち手に囚われずに、経営の本質から診断し、解決策の実行や新事業、経営革新をサポートします。巷で溢れる補助金やDX、AIなどはあくまで手段。事業の成長を後押しする中小企業診断士です。